千里の道をまだまだ走る~ときどきひとやすみ~

分析機器、医療機器の日英翻訳をしています。翻訳者生活10年目に入りました。翻訳や日々のつぶやき(料理・パッチワーク・読書)など、いろいろ書いていきます。

思い出したこと、いろいろ。

先日発売された技術英訳者の松本佳月さんの本好きな英語を追求していたら、 日本人の私が日→英専門の翻訳者になっていたを読んでいたら、いろいろと自分の昔のことを思い出して面白かったです。

そういうわけで、今日はちょっとした昔話(?)をしてみたいと思います。

「私が翻訳するわけではないけどね」がお決まりの文句に

私は新卒で翻訳会社へ入ったのですが、配属されたの部署は多言語の取説制作チームでした。

英語の取説をベースに数十言語に展開する仕事で、翻訳手配から翻訳チェック、そのあとの工程(DTP、編集チェック等、一連の作業)を担当していました。
翻訳には関わるけれど、翻訳をするのは私自身ではなく、各言語の翻訳者の方々。
私がやったことは、翻訳者への指示書作成や翻訳用のデータ作成、上がったデータのその後の処理・加工(チェックやDTP)などでした。

入社した最初の年は友人や近所の人、親戚に会うと、挨拶のように「お仕事何してるの?どんな会社に入ったの?」と聞かれたものです。
「翻訳会社で働いてるの」と言うたびに、戻ってくるのは「翻訳してるの?すごーい!」という言葉でした。
あまりに毎回同じ反応なので、「私が翻訳するわけではないけどね」と返すのがお決まりになってしまったほどです。そのうち面倒くさくなって、「翻訳会社で働いているの」の後に、先手(?)を打って「でも私が翻訳するわけではないけどね」と付け加えるのが習慣になってしまいました。

翻訳業界とは関わりのない人には、「翻訳会社=翻訳をする会社」、そして「翻訳会社の社員=翻訳をする人」というイメージなんだなあ・・と面白く思ったことが記憶に残っています。

そんなふうに思ったのはもう20年以上前のことなのですが、今でもそんな感じなのでしょうか?(今となっては周りの人は私から話を聞いて知っている人か、翻訳に関係ある人ばかりになってしまったので判断のしようがないのですが。)

お決まりの文句の呪い?!

まぁ、これは半分冗談です。

私が自分自身で翻訳をするようになったのは8年前のことで、それまで一切自分で翻訳をやろうと思ったことがなかったのですが、それはもしかしたら、「私が翻訳するわけではないけどね」という言葉によって「翻訳=自分では絶対にやらないもの」→「翻訳=私にはできない」という意識が刷り込まれてしまったからなのかも、と思ったりしています。

翻訳者になるのが「あと10年早かったら・・・」と思うことが時々あります。
もっと早くに翻訳の面白さに気づいて翻訳を始められていたら、まったく違う世界が拓けていたかもしれません。

いや、そこは「それまでの自分があったからこそ翻訳をする道を選んだ」と思うことにしたいです。

「翻訳=産業翻訳」でしょ?!

「翻訳」といえば世の中一般的にはまず思い浮かぶのが小説などの翻訳のような「文芸翻訳」なのかもしれませんが、社会人になってから日々触れる翻訳が産業翻訳ばかりだったので、私にとっては「翻訳」=「産業翻訳」のイメージの方が強かったです。

産業翻訳に接するのが日常だったため、実は、「産業翻訳」というジャンルについて知らない人がいるという意識が全くありませんでした。そのため、自分が翻訳をやることになって情報収集をしたときに、翻訳者になりたい人が読む本に「翻訳には「出版翻訳」「産業翻訳」などのジャンルがあって」・・・という説明が丁寧にされているのがすごく不思議に感じられたほどです。

私だって最初から知っていたわけではないのですが、思ったよりも知られていないものなのだな、と改めて実感したのでした。

翻訳「家」じゃなくて翻訳「者」!他にも「当たり前」じゃなかったことがいろいろあった!

翻訳をやるようになって情報収集したときに驚いたことがもう1つ。

産業翻訳をする翻訳者のことを「翻訳」じゃなく、「翻訳」と呼ぶ人もいること、「翻訳」という言葉が一般的に使われているわけではないことを初めて知りました。

私が翻訳会社で働いていた時には、翻訳をしてくれる人のことは当たり前のように「翻訳」と呼んでいて、「翻訳」はいわゆる「文芸翻訳」を手掛ける人を指す言葉だと普通に思っていました。

そのため、産業翻訳に関わっている人で「翻訳者」のことを「翻訳家」という人がいると、「本当に産業翻訳にかかわったことがある人なのかな?」と怪しく思ってしまっていたのですが、みんながそういうものではなかったことを知り、驚きました。

その他にも、当たり前だった「ミニマムチャージ」が一般的ではなかったこと、依頼時に当然のようにお願いしてしまっていた「ボリュームディスカウント」ほど理不尽なことはないこと・・・など、翻訳の手配を「する側」から「される側」に変ったことで初めて気づいたことがいろいろあり、面白いと感じることが多かったです。

ミニマムチャージについては5年ほど前に記事を書いていました。

ameblo.jp

そうそう、ミニマムチャージについてですが、今まで受けた案件のうち、ミニマムチャージが設定されたことは一度もありません。

翻訳料金に対してミニマムチャージを支払ってくれる翻訳会社はあるとは思いますが、チェックに対してミニマムチャージを設定している翻訳会社なんてあるのでしょうかね?チェックに対するミニマムチャージは今のところ聞いたことがないのですが・・。

ボリュームディスカウントは、理論的にも不思議なものですよね。。
大量購入して手間が減るから値引きできるような商品とは違って、翻訳の場合は量が増えれば手間も増えるものなのにどうしてディスカウントされてしまうんだろう?

私はチェックの案件でボリュームディスカウントの依頼をされたことがあります。
翻訳を手配する側だったときはボリュームディスカウントをお願いしたことはあったのですが(翻訳をやる立場になって初めて申し訳ないと思った)、チェックのボリュームディスカウントは初めて聞いたので、実は結構驚いたんですよね・・。チェック案件でのボリュームディスカウントも一般的なものなのでしょうか?

この手のネタは表に出てないだけできっともっといろいろあるのだろうなと思います。
私ももう翻訳会社を離れてだいぶたつので、もともと知らなかったものや最近生まれた不思議なルールのようなものなどいろいろありそうですし、機械翻訳がらみの案件でもたくさんありそうで、とても興味があります。

英訳は英語ネイティブがやるもの?そんなことはなかった!

ごめんなさい、「英訳は英語ネイティブがやるもの」、私も最初はそう思っていました。

翻訳会社に入社した同期の1人がわりと早いうちに英訳の翻訳者になると言って退職してしまったのですが、応援の気持ちもありつつも、「え?和訳じゃなくて、英訳をするの?」と思ってしまったのでした、当時は。

何も知らなかったのですね、私は。
そんな私がそれから20年後に英訳の翻訳者になるとは、さすがに想像もできませんでした。人生、何があるかわからないものです。

日英翻訳のチェックの仕事が自分の自信につながった!

私が翻訳会社にいた時には英語で直接原稿を書くこともあったのですが、その際には必ずネイティブチェックをかけていたため、余計に「日本人の英語はそのままじゃ使えない」というイメージがあったのかもしれません。

私は偶然運よく(?)英訳の仕事をすることになったのですが、英語が専攻だったわけでもなく、帰国子女でもなく、留学経験もなかったため、なんとか仕事はこなせていたものの、「翻訳者を名乗ってもよいのだろうか」と自信が持てずにいました。
ようやく「日本人の私も英訳者をやっていていいんだ」と思えるようになれたのは、日英翻訳のチェックの仕事をやるようになってからのことでした。

翻訳会社にいたときに私が担当していたチェックは、英語→多言語がメインで、日英の翻訳チェックをやるようになったのは日英翻訳を始めてから2年くらいたってからのことです。

多言語のチェックとは見るポイントが違うものも多く、どこまでコメントや修正を入れてよいものか最初は悩んだのですが、慣れてくるともっと違うところに目を向けることができるようになりました。
こうして英訳のチェックをやるようになって初めて、日本人の翻訳者による英訳と、ネイティブの翻訳者による英訳のメリット・デメリットを自分の目で見ることができ、さらに自分の英訳の経験と照らし合わせて、ようやく自分が英訳をやる意義を見つけることができたのでした。

 



あらら、少し書くつもりがずいぶん長くなってしまったので、この辺で終わりにしておきます。

 

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