千里の道をまだまだ走る~ときどきひとやすみ~

分析機器、医療機器の日英翻訳をしています。翻訳者生活10年目に入りました。翻訳や日々のつぶやき(料理・パッチワーク・読書)など、いろいろ書いていきます。

of 以下がかかるもの

*旧ブログ(アメブロ)からの転載・修正記事です。

『翻訳の布石と定石』を読んで注目した2つ目の点につい書きたいと思います。

■『翻訳の布石と定石』:例文3C-2, p145
 『翻訳の泉』:「第14回 and と or の話 」例文9の少し前
A and B of C・・・とあるとき、
of以下が係るのは、Bだけなのか(=「Aと、CのB」)、AとB両方なのか(=「CのAと(Cの)B」)については注意が必要だと思うのですが、実際には、判断がつかない英文に遭遇したり、自分で英文を書くときも考えてしまうことがたびたびあります。

今回注目したのは下記の記載です。

後置の修飾語句が後ろ(最後)のものにしかかからない場合は冠詞を繰り返します。逆に修飾語がすべてにかかる場合は、冠詞を最初に一回だけ使用します。

冠詞の有無で、of以下がどこに係るかを判断する。
当然のことなのですが、これまで冠詞にそこまで注意を払えていたか、あまり自信がありません。

今後自分で翻訳する際には気を付けることはもちろんですが、非ネイティブが書いた文も含めて他の翻訳の中でどう扱われているか、引き続き注目していきたいと思います。


今回のA and B of C以外のものも含め、修飾句が係るのはどこまでなのかということは、英訳にしても和訳にしても重要なポイントになると思います。
意味の上から推測できる場合、あるいは対象のモノの構造上、明らかな場合はよいのですが、どちらにも解釈できる場合もよくあるように思います。

そういう日本語原稿に出会った場合は、必ず事前に確認するか、後からコメントをつけるかして確認するようにし、どちらとも取れるような訳はできるだけ避けるようにしています。

どちらにも解釈できるものについては、どちらでもとれるようにしておく、という手もあるといえばあるかもしれませんが(これこそ曖昧な書き方ですが)、これは自分が過去に苦労したことがあるだけに、避けておきたいです。


今回のこのA and B of Cのほかに、例えば「Aな(の)BとC」といったときに、「Aな(の)」がBだけに係るのか、BとC両方に係るのか、気になるところですが、日本語にしても英語にしても、ラッキーなことに(?)どちらにも取れてしまうこともあります。

以前、「付属のAとB(supplied A and B)」という記載があったので、AもBも両方付属品なのかとおもったら、付属されるのはAだけだった、ということがありました。

日本語、英語だけで考えてみると、どちらにも取れるから、判断がつかない時は原稿通り(?)曖昧にしておけば誤訳にはならない・・・と言えるのかもしれません。

「A and B used for xxx」のように、後ろから過去分詞で修飾されるパターンも同様です。
used forがAとBの両方に係るのか、Bだけに係るのか。
A and B of Cの同様に冠詞で判断すればよいのかもしれませんが、たとえば関係代名詞を使ってA and B which is used for xxx/A and B which are used for xxxとすれば、Aが含まれるのか、それともBだけなのかはっきりします。
少し文が長くなってしまうかもしれませんが、曖昧にしないではっきりさせておきたいところです。


ここで、過去に苦労したときの話を書いてみたいと思います。
以前、英語版の取説を数十言語へ翻訳する多言語編集、チェック等の業務を担当していた時のことです。

例えば、どちらにも取れるような訳文を納品したします。
そのように翻訳された英語、あるいは日本語が、その後どう使われるかは、翻訳者にも(場合によっては翻訳会社にも)わかりません。
大元のクライアントが、納品された翻訳を海外の支社や関連会社へ送り、他の言語へ翻訳をすることはよくあることです。
こういう、どちらともとれる表現が、その後に翻訳される言語にどんな影響を及ぼすか。これについては、翻訳手配をする人によっても、翻訳対象言語によっても、そして、それを受け取った翻訳者によっても結果は異なるのですが、結構大変なことになる場合もあると思います。

例えば、前挙げたsupplied A and Bを例にとってみた場合。
英語やドイツ語などのように、形容詞が基本的には前につくものはいいのですが(名詞の性数による変化がある言語があれば別)、たとえばフランス語、スペイン語、イタリア語などのラテン系の言語のように形容詞が後ろにつくもの、名詞の性数による変化が生じる言語は、係る先が単数なのか複数なのか、性は何かにより、形容詞や過去分詞などの形を変えなくてはいけません。

フランス語に翻訳した場合を考えてみると、

Aだけに係る場合は
A fourni(e) et B
(*カッコのeはAが女性名詞だった場合につく)

Bだけに係る場合は
A et B fourni(e)

AとB両方にかかるのであれば
A et B fourni(e)s
(*カッコのeはAとB両方が女性名詞だった場合につく)

となります。

言語によっては、どこに係るのかを翻訳の時点で判断しなくてはいけなくなり、日本語や英語のように曖昧なままにはしておけません。

係りが曖昧なまま、特に指定せずに翻訳手配をしてしまうと、ある言語は英語同様、どちらとも取れるように訳し、ある言語はBのみに係る、ある言語はAとB両方に係るように訳す・・・と、翻訳者によって解釈がまちまちになり、同じ原稿を元に作るはずの取説が、言語によって内容に違いが出てきてしまいます。
分からない言語がほとんどなだけに、そのまま気づかずに納品してしまうか、気づいてしまった場合は、修正のために大変な苦労をすることになります。

1言語だけ考えれば大した問題ではないかもしれませんが、言語が多ければ多いほど、その数だけ問い合わせと修正を行わなくてはいけなくなり、ものすごい手間がかかります。 だから、多言語への翻訳を手掛ける場合、原稿になる英語を書くライターは、多少冗長になろうが、解釈が分かれたり誤訳を招くような表記をなくすように意識することを必要とされるし、手配をする場合にも注意を払う必要があるし、当然チェックの際にも気をつけなくてはいけなくなります。
「曖昧さは排除」を原則でやってきていたので、翻訳の際にも、チェックの際にもここはかなりこだわるポイントです。

とはいえ、多言語の翻訳のことは多言語手配者が考えればよいことで、英日、日英の翻訳者が考えることではないともいえるかもしれません。
ただ、私が翻訳に関わっている取説等は、その後フランス語とドイツ語に翻訳されることになると聞いているので、やはり曖昧さは残さないようにしておく方が、いろいろな意味で親切と言えるかなと思います。


最後に、もう一つ注目した点があるので書いておきます。

■『翻訳の布石と定石』:(例文3C-17~3C20, p157-158)
A as well as B xxxxxという文章の場合、後ろにあるxxxxxがAにも係るかどうか。
これについてもこれまで特に意識したことがなかったというか、当然のようにBのみに係るものとしていたように思います。

下記のような解説がありました。

as well asの場合は、修飾関係がそこで切れるという説明があり、それがas well as の存在価値の1つ

当然のようにBだけに係ると思って考えだことがなかったため「なるほど」感が大きかったので、ここに書いておきます。

as well asについては、別にもう1つ気になっていたことがあるので、次の記事で書いてみたいと思います。