千里の道をまだまだ走る~ときどきひとやすみ~

分析機器、医療機器の日英翻訳をしています。翻訳者生活10年目に入りました。翻訳や日々のつぶやき(料理・パッチワーク・読書)など、いろいろ書いていきます。

お客様は「神様」か

*旧ブログ(アメブロ)からの転載・修正記事です。

仕事中や、ブログ、Facebookの記事を読んだ時に、「このことについてブログに書いてみたい」と思うことが、たくさんあります。

そういう時は大抵仕事中か昼休みなので、その場でいろいろなことを考えて、頭の中で構想を練るのですが、帰宅後にいざ文章に起こそうとすると、何も書けない。

思い出そうとすればするほど、書きたかったことがどんどん曖昧になっていく・・ そんなわけで、書けないで終わってしまった記事がたくさんあります。思いついたら、忘れないうちにメモしておかないと。

書きたいことがうまく書けるかどうかわかりませんが、とにかく本題に入ることにしましょう。


最近よく思い出す言葉。

お客様は神様です。

新卒で入った翻訳会社の社長の口癖でした。

確かに、クライアントが翻訳や制作を依頼してくれるからこそ翻訳会社の仕事があるのだし、仕事をいただけることをありがたく思って、最高の品質のものを納品するのが当然だと思っていたので、この言葉については全く疑問を抱くことはありませんでした。

その社長は、徹底した考えを持っていて、自分の考えに合わなければ、どんなに大きな仕事であろうと、今後どんなに可能性のある仕事であろうと、絶対に受注を許しませんでした。

そして、女性が多い職場だったこともあり、「女性は家庭を大事にするもの」という考えのもと(この考え自体時代錯誤だと言われるかもしれませんが)、20時以降の残業や休日出勤は、よほどのことがない限りは許しませんでした。

だから、社員に過度の負担をかける仕事や社会的に役に立たないと思われるもの(社長の主観ではありますが)、大企業の横暴とも思えるような無茶な要求には、決してこたえることがありませんでした。

いろいろな意味で変わった方でしたが、今思えばこの徹底した考えで何十年も会社を続けてきたのだからものすごいことだと思います。

そんな強い信念をもって言う「お客様は神様です」ですから、説得力がありました。
だからこそ、疑問を抱くことがなかったのでしょう。

私が会社に入社したのは、1999年のこと。

まだ大量の翻訳をTradosで扱うよりも、地道に翻訳テキストをマック上で切り貼りしていくような、そんなお仕事の方が多かったと思います。 入社後数年した頃にようやくTradosが多言語の取説作成に使えるレベルになり、一気にTradosが広まりました。(一般的にはどうかわかりませんが、少なくとも私がいた会社では)

社長が交代したのは、ちょうどその頃。

詳しいことはわかりませんが、きっと社長のこれまでの考えではこれからの時代やっていけないと、上の人たちの間で意見の衝突があったのでしょう。

残念なことに、社長の交代と共に、会社も変わっていきました。

ありえない納期の仕事を当然のように受注し、Tradosの普及に伴い、激しいコストダウンが求められるようになってきました。(Tradosについて思うところもいろいろあるのでいつかそれについても書きたいのですが、今はとりあえず置いておきましょう)

深夜残業や休日出勤が当然のようになり、「有休をとる=悪」のような風潮の中仕事を続けるようになると、「お客様は神様」どころではありません。

その後会社を変わって、一時はよい方向へ向かったかと思えば、結局は同じことの繰り返し。

翻訳業界全体でコストダウンが重視され、品質は低下の一途をたどっていきました。

どんな無茶な仕事であっても、営業が受けた以上、できる限り最高の品質で納品をしなくてはいけないのは当然のこと。

それでもかけられる時間や工数、人材に限界があり、矛盾した状態に耐えられなくなってきたところで、翻訳会社を離れて今に至ります。

最初の質問に戻りますが、「お客様は神様か」。

仕事を取りたいがために、納期的にもコスト的にも無茶苦茶な状態でも受けてしまうのが現状。

それをわかってそんな仕事を振ってくるお客様は、神様ではないけれど、でも、お仕事を受けた以上、絶対的な存在であることは間違いないと思います。

そういう状態をつくらないために、無茶な仕事は受けるべきではないと思うし(そうじゃないと仕事がなくなるから無理だけど)、その無茶な要求が当然のように通るようになってしまったからこそ、翻訳会社が今大変な苦労をしているわけで、そのせいで翻訳のコストも下がり、翻訳者にしわ寄せがきているのでしょう。

お客様を神様だと思えるようにするために、何かいい方法がないものか?

考えてもわかりません。

そう思う一方で、やっぱり、「お客様は神様かも」と思ってしまうこともあります、実は。 それについては、次かなり話が変わってしまうので、また別の機会に。