千里の道をまだまだ走る~ときどきひとやすみ~

分析機器、医療機器の日英翻訳をしています。翻訳者生活10年目に入りました。翻訳や日々のつぶやき(料理・パッチワーク・読書)など、いろいろ書いていきます。

信念を持つこと

*旧ブログ(アメブロ)からの転載・修正記事です。

前回に「翻訳者にとって大切なこと」の最後に書いた、「信念をもつこと」。

これは翻訳者にとって、とても大事なことではないかと思います。
今回の「信念は」、「絶対に翻訳者になる」とかそういった信念ではなく、自分の担当した翻訳に対する信念についてのお話です。

以前翻訳手配の担当をしていたとき(窓口ではなく、データを準備したり質問を出したり、答えたり、という内容的なところ)、いろいろな翻訳者と連絡を取り合いました。
翻訳対象が英語ではなく多言語だったため、自分のわかる言語や明らかな修正以外は、翻訳者に修正してよいかを質問することがよくありました。
質問は厳選した内容に限り、さらに「修正可能か?」といったように、Yes/Noで返答できるように工夫して送っていたのですが、そのほとんどすべてに「Yes, you can change.」と答える翻訳者がいて、私はそのタイプの翻訳者は実はあまり好きではありませんでした。(好きなように直せて都合が良いこともありましたが。)

もちろん、「担当者が変更したいというなら、それに従おう」というのがその翻訳者の方針だったのかもしれないので、一概に悪いとも言えないのですが・・。
でも、あまりに簡単に翻訳を修正していいよと言われてしまうと、それだけ自分に間違いがあったのだと認めているということで、せめて、「自分の方が正しいけれど、どうしても変えたいというならOK」くらいの返事が欲しい。それだけ修正があるなら、気づかないけど実は他にもあるのでは?・・なんて不安になってしまったりもします。 適当にやった翻訳で、信念なんてないのでは?・・・なんてことさえ思ってしまいます。

反対に、「いや、これはこういう理由なので、絶対に変えてほしくない」と、しっかりした答えを返してくれる人もいました。
もちろん、少しでも翻訳を変えようとするとものすごく怒る翻訳者や、絶対に譲ってくれない翻訳者もいましたが、実はその方が頼もしかったりします。
それだけ自分の翻訳に自信がある、こうだ!と信念を持ってやっているということだろうと思えたから。
ただ、これもまた、単なる頑固者、ということもあるので微妙なところなのですが。
でも、本当にしっかりした人なら、こちらがきちんとした内容で誠意のあるやり取りをすれば、回答や対応もそれなりで、かなりいい関係が築けていたように思います。


翻訳をするうえで「信念を持つ」こと。

なぜこの用語を使ったのか、なぜこの訳にしたのか。

質問を受けた時や、おかしいのではないか、と言われたときに、 もちろん間違いだったらそれを認めればいいのですが、 そうではない場合も多いと思うので、「自分はこうだと思うからこうした」とはっきり言えれば、相手もそれで納得してくれることもあると思います。

チェッカーのレベルもチェックの入れ方も様々で、正直好みによるものも多々あるかと思います。もちろん、間違った指摘も。
その時に、翻訳者は、自分の翻訳が「こういう理由で正しいと思う」と言えるようにしておけばいいのかなと思います。そして、「チェッカーの指摘も間違いではないけれど、元の訳(自分の訳)の方がいい」とか、「自分の翻訳は間違ってはいないけれど、チェッカーの指摘の方がよい」とか、 そういった、自分の翻訳の正当性を主張した返答もできるはず。

チェッカーの指摘と翻訳者の主張がぶつかった場合は、私は翻訳者の翻訳を優先するべきだと思っています。(明らかに勘違い、間違がある場合やお客様の要望・これまでのルールに反しない限り。)

もし自分の信念をもって翻訳をし、フィードバックにも返事をした上でも聞き入れてもらえない、自分のやり方では通用しないと思ったら、場合によってはお付き合いをやめることを考えた方がよいこともあるかもしれません。

もしも翻訳会社がよくないところ、または相性が悪かっただけなら、単他の会社ではうまくお付き合いできる会社が見つかるでしょうし、もしも翻訳者が間違っているか、実力がないのが理由だったなら、どこの会社にいっても同じ結果で、いつか自分が間違っていることに気づくか、気づかなければ、そのうちにお仕事がなくなってしまうか・・ということになるのでしょう。

ただ、こういうやり取りは、とても時間がかかることなので、翻訳者がやることなのか・・・という話にもなるので、難しいところですよね。 (チェッカーのチェックのうち、どこまでを翻訳者に戻すかにかかっているといえるでしょう)

とまぁ、まだ翻訳者として翻訳会社とお付き合いしたことがない私が偉そうに言うのもなんですが、派遣社員としての仕事もちょっと似ているかな、と思っています。

いろいろ、探りながらの毎日です。


話は戻りますが、おまけで各国語のチェックのお話。

各国語の翻訳者の場合、海外にいる翻訳者が多い分、メールとデータだけのやり取りがすべてになります。
そして、わからない言語も多いだけに、その翻訳のレベルがどの程度のものなのかは、本当にあたりはずれが多かったりします。

だからこそ、見つけたミスや疑問はきちんと質問しないと、向こうも「〇〇という会社はあまり翻訳の質はよくなくても大丈夫。」と、甘く見られてしまう、ということもあったようです。

日本でも翻訳者のネットワークがあるのと同様、各国語の翻訳者のネットワークもあり、その中で「ここの会社はちゃんとしないとまずい」といった内容を翻訳者同士で実は情報交換をしているらしい・・という話も聞いたことがあります。
本当のところは定かではありませんが。

まあ、でも。
この話はフィードバックされる内容が、妥当なものであった場合のみですね。
翻訳者を怒らせるだけのチェックは迷惑なだけだと思うので。