千里の道をまだまだ走る~ときどきひとやすみ~

分析機器、医療機器の日英翻訳をしています。翻訳者生活10年目に入りました。翻訳や日々のつぶやき(料理・パッチワーク・読書)など、いろいろ書いていきます。

【読了】 The Violin Conspiracy

The Violin Conspiracy、読了しました。
(読み終えたのは8月の前半ですが、メモとして残しておきます。)

この本はバイオリンをテーマにした小説を探していたときに見つけた本です。
「Conspiracyというからには、ミステリーか?」と思って読み始めた本ですが、予想とは少し違った内容で(よい意味で)、読み始めたら先が気になって止まらない、いわゆる page-turner でした。

音楽をやっている人で自分の楽器を持っている人なら、楽器に対する愛着も、楽器がなくなってしまった時の衝撃(恐ろしさ?)が自分のことのように理解できると思います。

また、この本にはバイオリンの名曲が多く登場しますが、曲を知っていると一層楽しめると思います。楽器や音楽の描写も美しくなめらかで、読んでいて心地よかったです。

ざっくり全体の感想

ミステリーという側面だけからこの先品を見てしまうと、単に、「あるバイオリニストの大事なストラディバリウスが盗まれてしまい、それが見つけ出すまでのお話」となります。
バリバリのミステリーを期待して読んでしまうと、期待外れと感じる人もいるかもしれません。
私はバイオリンがテーマになっている小説なら何でもよかったので特にガッカリすることはなかったのですが、解決につながるヒントというか、推理(?)自体に少し無理があるというか、「え?ここから?」とは思ってしまいました。

この本の注目すべき点は、別の側面にあります。
この作品は、数々の困難を乗り越える主人公(レイ)の成長物語でもあり、コンクールに挑む音楽小説でもありました。
とにかく読者を飽きさせることのない構成でした。次の展開が気になって手に汗をにぎり、レイにふりかかる理不尽な出来事に本気で怒りを感じ、レイの成功を心から願いながら読み進められるようなストーリーでした。

また、人種差別についてもいろいろと考えさせられる作品でした。
レイは黒人のバイオリニストなのですが、子供の頃から理不尽な差別にあい、バイオリニストになってからも数々の差別や嫌がらせにあいます。

ここまで露骨なことが現代でも本当にあるのだろうか?と思ってしまったほどなのですが、作者自身が黒人のバイオリニストで、この小説に書かれている差別や嫌がらせは、すべて自身が経験したことだそうです。人種差別についても音楽についても、自分自身の経験を元に書かかれているからこそリアルさを感じられるのだと思います。

子供の頃に人生で初めて差別を目の当たりにして衝撃を受け、祖母にその経験を打ち明けるシーンがあります。その時に祖母がレイに言った言葉は(あえてここには書きませんが)、差別する人にを恨んだり嘆いたりするものではなく、どう行動するべきで、どういう人間であるべきかを諭すもので、とても心を打たれるものでした。これがまさに著者の信念ともいうべきものなのでしょう。

差別をする人間がいる一方、救いの手を差し伸べ、導いてくれる人もいます。
レイも(著者も)そういう人に恵まれ、信念ともいうべき言葉を胸にまっすぐに生きていきます。レイの姿は著者そのものなのでしょう。

7月末に訳書が発売になったそうなので、巻末の著者あとがきもふくめ、これはたくさんの小中高生にぜひ読んでもらいたい作品です。
結局私は訳書を読まずに終わってしまったのですが、気になる表現や、どのような訳になったのかを知りたい箇所もあるので、後日改めて読んでみたいと思います。

The Violin Conspiracy は、著者 Brendan Slocumb のデビュー作です。
巻末に次の作品 Symphony of secrets が少しだけ載っていました。
次作もぜひ読んでみたいと思いましたが、途中までしか読めないのはイヤなので、私は巻末に掲載されている次作は、ひとまず読まずに飛ばしてしまいました。

 

 

次に読む本

次に読み始めたのは、こちらの本です。

みんちゃれの洋書グループのメンバーが去年読んでいて、とても興味深い内容だったので私も読んでみることにしました。

翻訳が村井理子さんなので、合わせて日本語の書籍も購入しました。
後追いで、気になったところを重点的に読むようにしています。