千里の道をまだまだ走る~ときどきひとやすみ~

分析機器、医療機器の日英翻訳をしています。翻訳者生活10年目に入りました。翻訳や日々のつぶやき(料理・パッチワーク・読書)など、いろいろ書いていきます。

「うなぎ文」と「こんにゃく文」から考えたこと②

*旧ブログ(アメブロ)からの転載・修正記事です。

さて、引き続き、こんにゃく文のお話です。

今日は、過去のチェック案件で出会ったビックリな訳文の話と絡めて書いてみたいと思います。


こんにゃくは太らない。

前回も書きましたように、これは説明をするまでもなく、「こんにゃくが太ったりやせたりする」わけではなくて、「こんにゃくなら食べても太らない」という意味でしたね。

「~は」は必ずしも文章の主語になるとは限らないし、日本語の場合、述語や、主語・目的語の一部を省略しても意味が通じる(通じてしまう)・・ということを示す例になる文だと思います。

こういうタイプの日本語は他にもたくさんありますが、日本語ネイティブであれば、解釈を間違えることは少ないのではないかと思います。(複数の解釈ができる場合は別にすれば。)

こんにゃく文とは少し違う文で、こんな貼り紙を見かけたことがあります。

こどもはあぶないのでさわってはいけません。

語順がおかしいものの、話し言葉であれば、「子供たちは危ないから触らないで!!」などと、私もよく言ったりします。

もちろん、「あぶないから、こどもはさわらないでね」ということだと、問題なくわかると思います。
日本語ネイティブであれば、「こども=あぶない存在なの?!」と、意味を取り違える人はまずいないでしょう。

日本語を教えた経験がないのでわかりませんが、日本語のネイティブではない日本語学習者のうち、特に初心者であれば、「こどもはあぶないのでさわってはいけません。」や「こんにゃくは太らない」という文を読んで、首をかしげてしまう方もいるのではないでしょうか?


実際、以前担当した日英翻訳のチェックで、それはそれはものすごい、首をかしげたくなるような英文だらけの案件に当たったことがあります。

和文の原稿自体も、こんにゃく文や上の例の「こどもは~」の文のような文章だらけで、日本語の質としてもイマイチだったのですが、英語はすごい状態でした・・。とてもチェックができる状態なく、途中でチェックをやめて、コメントを付けて戻したほどです。

初心者英語ネイティブによる翻訳だったので、日本語の理解度も高くなかったのかもしれませんが、「~が」と「~は」ときたら必ず文章の主語にしなくてはいけないと思いこんでいるのか、いうほどでした。

そのままの内容を載せられないので、ちょっと違う文で原文、訳文共に再現してみました。

<和文>
旅行は、まず初めにどこに行くのかを決め、次に旅行会社を選ぶかを考える必要があります 。

これを、その翻訳者はこのように訳していました。

Traveling determines where to go first, and then which travel agency to select....

和文自体も全体的にあまりよい文ではなかったし、文の書き始めを何でもかんでも「~は、」としていたので訳しづらかったのかもしれません。先頭の「~は」をとにかくひたすら文の主語にして英訳していたようでした。

極端な話ですが、 「私は、趣味は読書です。」という文章があったとしたら、 I, my hoby is reading books.というような訳になっている文さえありました。

英文だけ読んだらさっぱり意味がわからず、時間がなくて翻訳ソフトを使って訳したのかと疑ってしまったほどです。
自分の訳した英文を読んだら、その文が意味不明なことが分かるでしょうに・・。

さて、Googleは上の文をどのように訳したでしょうか? 以下のような結果となりました。

For traveling, you first have to decide where to go and then think about choosing a travel agency

最近のGoogleは、精度が高くなってきたので、あまりおかしな訳をしているようではこの先翻訳のお仕事で生き残っていくのは厳しいですね。

ついでに、こんにゃく文。

Googleの訳は

Konjac does not get fat

でした。

少し安心したような微妙な気分。


日英翻訳のチェックの依頼を受けるときには、翻訳者が日本人なのか英語ネイティブなのかを必ず確認するようにしています。
また、翻訳経験もわかれば教えてもらっています。

日本語力・英語力が共に高い場合は、日本語ネイティブであっても、そうでなくても問題ないかもしれませんが、翻訳の経験が浅い日本語ネイティブであれば、日本語ネイティブならふつうは間違えないような誤った解釈をしてしまう可能性があります。(係り受けの間違いも時々見られます。) ですから、翻訳者が日本語ネイティブではない場合、その点を警戒してチェックをしたりしています。
逆に、日本語の翻訳者の場合は、文章の解釈はほどほどにして、英文の間違いを重点的にチェックするなど、翻訳者によってチェックの仕方を変えています。

それにしても、チェックの仕事は微妙な仕事ですね
良い翻訳ばかりに当たるのであればよいのですが、私はどちらかというと怪しい訳を受け持つ方が多いです、今は。
おかしな英語ばかり読んでいると、自分の感覚までおかしくなっていきそうなので、別に正しい英語も読むようにしていかなくてはいけません。おかしいものはおかしいと思えるようにい続けないといけないなと思います。

娘の英作文を見て、こんにゃく文を思い出し、過去の怪しい英訳のことまで思い出してしまったのですが、まだまだ続きます。 次は、今回の日英翻訳の反対、英日の翻訳について書いてみたいと思います。